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第7回 カフェカブパーティーin京都 トークフォーラムレポート

2010年5月23日()京都市梅小路公園・特設ステージにて開催。 テーマは「カブのデザイン」。 MC(司会進行)は奥村美保さんにお願いしました。 なお、文中では敬称を略させて頂きました。



ゲスト紹介

川和 聡(かわわ さとし)
1963年6月17日生まれ(46才)
1989年 株式会社本田技術研究所 入社
二輪R&Dセンター デザイン開発室 SMG(シニアマネージャー)
現在はスクーター&カブ等コミューターデザインの提案責任者。
 

渡邉徳丸(わたなべ とくまる)
1964年3月23日生まれ(46才)
1986年 株式会社本田技術研究所 入社
二輪R&Dセンター デザイン開発室 主任研究員
最近はスーパーカブC110とEVカブをデザイン。
 

MC
それでは早速、お話しを伺って参りたいと思います。
川和さんが、ホンダに入社された動機は何だったのでしょうか?

川和
デザインの専門学校に通っていた時、ホンダから1名枠でデザイナーの募集があると、担当の先生から聞いて、面接を受けました。 入社試験は無しで面接だけ。 後で聞いたら、既にホンダに採用が決まっていた学生が1人、キャンセルした為に追加募集したらしいです。

MC
バイクがお好きだったという訳ではなかったのですか?

川和
そうですね。何がなんでもバイクの会社というわけではありませんでした。ただ「自動車やバイクの会社に就職するのだったらホンダがいいなあ」という、漠然とした気持ちはありました。 何故ホンダなのかという明確な根拠はありませんでしたけれど()

MC
渡邉さんは、どうしてホンダに入社されたのですか?

渡邉
私は子供の頃から絵が好きで、それとタミヤのプラモデルが大好きでよく作っていたのですが、その中でCB750フォアとかで「ホンダっていいな」というイメージがありました。 高校時代に美大進学の予備校で、いつもはリンゴやビン等を描く「静物デッサン」の勉強をしていたのですが、ある日の題材がカブのOHCエンジンだったことがありました。 その時に他の学生は「いろいろゴチャゴチャ細かくて面倒臭いな」と言っていたのに対して、私はボルトや冷却フィン等の、細かな造作を描くのがとても楽しかったことを覚えています。 多摩美に入って、最初はヤマハRZ50に乗っていましたが、同級生がホンダCBX400Fに乗っていて、私も中型免許を取って対抗してカワサキZ400GPを買いました。 それに4年間乗っていましたが、「やっぱりCBXがいいな、ホンダがいいな」と思っていました。
卒業して結局ホンダに入社することが出来ました。

MC
入社されたホンダの印象は如何でしたか?

川和
私の学生時代には、一世を風靡したシティやプレリュードの印象が非常に強く、ホンダって洗練された垢抜けた会社というイメージでしたが、朝霞研究所(現二輪R&Dセンター)は全く違っていました。 特にデザイン室は(良くも悪くも)非常に個性的な人が多く「ここは本当に普通の会社ですか?」と思ったのを覚えています。

渡邉
大企業だから、いわゆる普通のサラリーマンみたいな人ばかりかな、と漠然と思っていましたが、入ってみると工業高校の生徒みたいな人が沢山いて、ワイワイガヤガヤ自由奔放にバイクを作っている感じでした。 最初に紹介された上司が大森さんという方で、角刈りで大工の親方みたいな人だったのを覚えています。

MC
川和さんはカブのデザインに携わられたのですか?

川和
確か1993年だったと思いますが、入社3年目の私に「スーパーカブをビジネスバイクではなく、パーソナルコミューターとしてリ・デザインしてみる」というプロジェクトが与えられまして、しかも東京モーターショーに出展するコンセプトモデルだと言うのです。 スーパーカブのデザインなどやったことがなかったので、かなり悩みました。 既に引退されていた初代C100のデザイナーの木村譲三郎さんを招いて、「スーパーカブのデザインに込められた思い」等のお話しを伺って、自分に与えられた役割の重さに更に悩んだのを覚えています(笑)。 結果としては、ディティールパーツやエンブレムまで自分でデザイン出来た、思い出深いモデルです。

MC
それがシティカブですね?


川和
そうなんです。シティカブはモーターショーでは好評を博したものの、コンセプトモデルでしたから量産化には至りませんでした。 けれども後に先輩がリトルカブをデザインする時に、レッグシールドやハンドル周りのデザインに取り入れてくれたので、非常に嬉しかったです。

MC
先程、シティカブをデザインされる時に、初代C100のデザインコンセプトを参考にされたお話しが出ましたが、カブのデザインの変遷について、解説をお願い致します。

川和
先程話しましたように、初代C100を木村譲三郎さんがデザインされ、宮智英之助さんと森岡實さんが、現行モデルのベースになるC50にリ・デザインされたと言う経緯は、実は私自身もデザイン室の先輩から聞いた話しでしかないんですよ。 この時代のカブのデザインの変遷については、沢山の書籍が出版されていますので、皆様の方が詳しいのではないかと思います。ですから、今日は私自身が見て来たカブのデザインについて、お話し致します。
まず、二輪のデザインの手順を説明しますと、最初にスケッチを描いて、その後に実際のフレームやエンジンや足廻りをベースにして、インダストリアルクレイという粘土で形を造ります。 これをクレイモデルというのですが、私が入社して22年の間に、国内向けスーパーカブのクレイモデルは3回しか見たことがないんですよ。 1回目はリトルカブで2回目が新しいスーパーカブC110、3回目がスーパーカブC110プロです。 日本のカブは、それだけ形を変えずに皆様に愛されて来たのですね。
また、ホンダのデザイナーにとって、日本のカブをデザインするということは、物凄いプレッシャーなんです。 いろんな人がいろんなことを言いますしね()。 その辺は後程、渡邉が話しをするでしょう。 対照的に、アセアンのカブは様々な形・機能で進化しています。
今日も何名かの方がアセアンのウェイブでいらしてますね。 タイ、インドネシア、ベトナム、カンボジア等、各々の国に各々のカブが存在します。 日常の便利な足・道具であるという点では世界共通ですが、ファッショナブルであったりスポーティーであったりと、ちょっと日本のカブとは違った味付けがされています。 昨年はオートマチックのカブも発売しました。

MC
さて、渡邉さんは最新のスーパーカブ110をデザインされたそうですが、やはりプレッシャーがありましたか?

渡邉
スーパーカブは、無駄がなく機能に基づいた必然のカタチで出来ていますが、新しいカブもそれを念頭に置きながら、今の時代に合わせ更に洗練させていきました。例えて表現すると、100円のグラスと1000円のグラスは遠目で見ると殆ど形は一緒だけれど、近くで見て実際に手に取ってみると、明らかに質感が違いますよね。 勿論、素材自体の違いもあるのですが、そこには作り手の「職人の技」が込められているか否かという、違いが存在すると思うのです。 そのような作り手の「匠の技」を感じてもらえる造形を目指して、実際にクレイモデルもベテランモデラーの「熟練の技」で纏め上げられています。
デザインの仕事はある部分で、狙った的に的確に当てる作業に相通じる面があるのですが、その作業を「輪投げ」に例えると、一般的なバイクやスクーターのデザインでは、殆どの場合幾通りかの選択肢というか正解があって、「輪投げ」で言うと棒が9本あるアレです。 どれかに入ればそれで得点になりますよね。 ところがカブのデザインは、正解が基本的に1個しかない。 「輪投げ」の棒がたったの1本!という感覚に近くて、「真にこれしかない」というピンポイント狙いの作業でした。 途中で何度もダメ出しを貰いながら、最終的にこの形に纏め上げることが出来ました。

MC
私も昨年の大阪モーターショーで、EVカブのナレーションを務めさせて頂きましたが、デザインされた渡邉さんに、EVカブについてお話しを伺いたいと思います。

渡邉
昨年の東京モーターショーで、HELLO!コンセプトと題して、二輪・四輪・汎用のトータルで、ホンダの電動化技術の未来像を具現化しました。 その中で二輪としてはEV化されたカブを、コンセプトモデルとして出品しました。
EVカブをデザインするに当っては、「便利なバイクをより多くの人々に提供したい」という初代C100の想いを継承しまして、仕事用途というよりは「日常の便利な足」を意識してデザインしました。
単にスタイリングから入るのではなく、エンジンからモーターへと動力源が変ったとしたら、そのまま動力源が同じ位置で入れ替わるのではなく、エンジンより遥かに軽くコンパクトなモーターならば、最も効率的な配置にするべきということでホイールインモーターとして、重くマスのあるバッテリーは車体の中心部に配置する、というように車体レイアウトから始めて行き、「機能から来る必然のカタチとはどうあるべきか?」という観点でデザインして行きました。
デザイン作業を始めるに当り、ホンダ・コレクションホールからC100を借り出して、デザインスタジオで実車を観ながらスケッチを描くことにしました。 そのままで誰かに触られて壊されでもしたら大変ということで、銀行のATMにあるような赤いベルトパーティションでC100を囲い、更に注意書きとして「神様につき、触るべからず」と筆文字で書いた短冊を作って、ベルトパーティションに貼って置いたんです。 次の日の朝出社すると、若いスタッフが短冊の下に賽銭箱を、それもご丁寧に賽銭まで入れて置いていました()
それからは毎日、C100を拝んでからスケッチを始める日々を過ごすことになりました。拝んでいると何だか、色が灰色っぽかったこともあるのですが、C100がまるでお地蔵様のように見えて来ました。 毎日拝む以外は本当の話しです。

MC
因みに、HELLO!コンセプトとは、どういう意味なのでしょうか?

渡邉
Honda Electric mobility Loopの頭文字で、低炭素社会・循環型社会の実現を目指し、ホンダの総力で提案する未来ビジョンコンセプト、という意味で国内だけではなく海外からも注目を集めています。

MC
興味深いお話しが尽きませんが、お時間がなくなってしまいました。 お終いに、お二人から本日お集まりの皆様に、メッセージをお願い致します。

川和
スーパーカブはホンダの歴史であり、大切な財産だと思っています。 本日お集まり頂いた皆様を見て、増々その思いが強くなりました。 バイクは今後、もしかしたらパワーユニットやカタチが変化して行くかも知れません。 でも、いつまでも皆様に使って頂けるような車両を造り続けたいと思います。 本日は本当にありがとうございました!

渡邉
近年は環境問題がクローズアップされ、ホンダもEVスクーター等にも取り組んでいますけれども、私はエンジン付きのバイクは将来も決して無くなることはないと思っています。 もし将来、総てのバイクがエンジンからモーターに替ってしまうと仮定したら、世の中で最後まで残るエンジンのバイクはカブだと思っています。 何故なら最もエコなバイクだし、皆様のように多くの人々に愛されているバイクだからです。 皆様、これからもカブをよろしくお願い致します!

MC
ありがとうございました。